一般媒介契約とは
一千万円単位の商品である不動産売買は、宅建業法などの法律に基づいたルールがあります。
そのルールに沿って取引されるので、専門的な知識が必要になり、素人だけで不動産取引を成立させるのは難しいです。
そのため、不動産会社に仲介を依頼するための「媒介契約」を締結するという流れが一般的であり、そんな媒介契約には内容の異なる3つの種類あります。
一般媒介契約とはどのような契約か?
簡単にいうと、一般媒介契約とは「複数の不動産会社に自分の不動産の売却を依頼できる」という契約です。
一方、ほか2種類の媒介契約は一社のみにしか売却を依頼できません。
これだけを聞くと、「複数の不動産会社に依頼できる方が良い」と感じる人もいると思いますが、実はそれほど単純な話ではありません。
結論からいうと、基本的には「専属専任媒介契約」と「専任媒介契約」の、いわゆる「専任系媒介契約」の方が不動産は売りやすいでしょう。
一般媒介契約を結んだ方が良い物件は、不動産会社が「売りやすい」と思うような人気物件に限ります。
3種類の媒介契約の違いを理解し、その違いによるメリット・デメリットを分かった上で、どの媒介契約を結ぶべきかを判断してください。
一般媒介契約の特徴とは?
3種類ある媒介契約の違いは以下の通りです。
一般媒介 | 専属専任媒介 | 専任媒介 | |
---|---|---|---|
依頼できる不動産会社 | 複数社に依頼可能 | 依頼は1社のみ | |
レインズ登録義務 | 任意 | 契約後5日以内 | 契約後7日以内 |
売却報告義務 | 義務なし | 1週間に1回以上 | 2週間に1回以上 |
自分で買主を見つけたとき | 自由 | 仲介手数料発生 | 費用負担があるかも |
依頼できる不動産会社
上述したように、一般媒介契約は複数社と契約を結べるので、複数社が自分の物件を売却してくれます。一方、専任系媒介契約は一社のみが売却活動を行います。
この「依頼できる不動産会社」が一社か複数社かという点が、媒介契約ごとの最も大きな違いです。
レインズ登録義務
レインズとは、Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)の略で、不動産会社のみが閲覧できるネットワークシステム(≒サイト)です。
レインズでは「現在の売り出し物件」と、「過去に成約した物件」を見ることができます。そのため、自分の物件をレインズに登録するということは「現在の売り出し物件」として露出するということです。
つまり、媒介契約を締結した不動産会社以外の不動産会社も、自社の検討客を紹介してくれる可能性が高まるというメリットがあります。
一般媒介契約にはレインズ登録義務がないので、登録するかどうかは不動産会社次第です。一方、専任系媒介契約は迅速に登録します。
一般媒介契約でもレインズ登録する不動産会社もありますが、積極的にレインズ登録するケースは少ないでしょう。
なぜなら、不動産会社は自社のみしか売却活動をしていない「専任系媒介契約」の方を優先させるからです。
売却報告義務
一般媒介契約には、以下の売却報告義務はありません。
・広告からの反響(問い合わせ)状況
・検討者の状況
・競合物件の情報
前項と同じく、不動産会社は専任系媒介契約を結んでいる物件を優先させます。そのため、一般媒介契約を結んでいる物件を積極的に売却報告するケースは少ないです。
一般媒介契約を結ぶなら、自ら不動産会社に問い合わせない限り、上記のような情報は得られないと思った方が良いでしょう。
自分で買主を見つけたとき
ケースとしては少ないですが、たとえば「知人や友人から直接買いたいと連絡がきた」というように、売主が買主を直接見つけるときがあります。
その場合、一般媒介契約は「買主と直接取引すること」を、媒介契約を結んでいる不動産会社に遅滞なく通知すれば、費用発生せずに買主と直接取引できます。
一方、専属専任媒介契約の場合は仲介手数料が規定通りかかりますし、専任系媒介契約の場合はその時点までの広告費を請求されることがあります。
ただし、素人同士で契約を結ぶとリスクがあるので、売主と買主が直接契約する場合には、「契約書や重要事項説明書の作成」を不動産会社や司法書士に依頼するというケースが多いです。
その場合、満額の仲介手数料を支払うよりは安価で済みます。
一般媒介契約のメリット
前項までで媒介契約ごとの違いを解説しました。この章では、一般媒介契約のメリットである以下を解説していきます。
・不動産会社による囲い込みを防げる
不動産会社選びを失敗するリスクの軽減
一般媒介契約の場合には、複数の不動産会社に売却を依頼できるので、不動産会社選びに失敗するリスクは小さいです。
不動産会社ごとに、「このエリアは苦手」や「マンションの売却実績が少ない」など得手不得手があります。そのため、媒介契約を結んだ不動産会社が「苦手」な不動産であり、売却がスムーズにいかないこともあり得るのです。
そんなとき、専任系媒介契約の場合には簡単に媒介契約を解約することはできず、場合によっては解約時に費用負担が発生します。
一方、一般媒介契約の場合には、新たに別の不動産会社と一般媒介契約を結ぶことができるので、不動産会社選びに失敗するリスクは極めて小さいといえます。
不動産会社による囲い込みを防げる
一般媒介契約の場合、不動産会社によって囲い込みされるリスクは小さいです。
というのも、一般媒介契約を結んでいる物件は、不動産会社からしてみると「手段は選ばず早く売ってしまいたい」物件だからです。
囲い込みとは?
そもそも囲い込みとは、不動産会社が自社で買い手を見つけて、買い手からも仲介手数料をもらう「両手取引」にしたいがために、他社からの紹介を断ることです。
たとえば、他社から「検討しそうな人がいるが案内できるか?」という問い合わせに、「申込者がいるので案内できません」と嘘をつくというイメージです。
囲い込みをされると集客が落ちますので、売主にとってメリットはありません。
一般媒介契約は囲い込みリスクが小さい理由
一般媒介契約なら囲い込みされるリスクが小さい理由は、他社からの紹介を断るケースが少ないからです。
というのも、一般媒介契約の場合には他社も売却活動をしており、他社が先に成約すれば仲介手数料をもらえません。
そのため、特にチラシなど費用がかかる広告を投下しても無駄になる可能性があるので、そもそも積極的な広告活動を行いません。
つまり、他社から検討客を紹介されるということは、広告費無しで集客できるということなので、一般媒介契約を結んでいる物件にとっては好都合なのです。
そうなると、他社からの紹介は、むしろ積極的に受け入れるということです。
一般媒介契約のデメリット
一方、専属専任媒介契約も以下のデメリットがあります。
・優先順位が下がる場合が多い
・個別の対応が面倒
効果の高い広告を抑える
上述したように、広告を積極的に投下しても、一般媒介契約の場合は他社が先に成約するリスクがあります。そのため、費用の掛かるチラシを抑える不動産会社が多いですが、実はチラシなどの広告は効果の高い広告です。
というのも、不動産は地元の方が購入するケースが多く、チラシ広告は地元の方に直接アピールできる広告だからです。
そんな地元の方に向けた広告を積極的に展開しない一般媒介契約は、専任系媒介契約よりも「地元民の集客が落ちやすい」というデメリットがあります。
優先順位が下がる場合が多い
広告費と同じく、一般媒介契約の場合は営業マンの優先順位も落ちます。
たとえば、あなたが営業マンだとして、一般媒介契約を結んでいるA物件、専属専任媒介契約を結んでいるB物件を担当していたとします。そのとき、A物件とB物件に別々の人から同時に問合わせが入り、どちらも同じに日に「見学したい」という内容だとしましょう。
その場合、A物件とB物件の売却価格にそれほど差がなければ、どちらの案内を優先させるでしょうか?恐らく、専属専任媒介契約を結んでいるB物件を優先させる人が多いでしょう。
なぜなら、A物件は他社も売却活動をしていますが、B物件は自社しかしてないからです。
つまりB物件には敵がいないため、成約につながる可能性が高くなり、仲介手数料という利益を得られる可能性が高くなります。
そのため、一般媒介契約を結ぶと、専任系媒介契約の物件よりも優先順位が下がってしまうというデメリットがあります。
個別の対応が面倒
一般媒介契約を結ぶメリットは「複数社に依頼できる」ことなので、逆に言うと一般媒介契約を結ぶということは複数の不動会社と一般媒介契約を結びます。
一般媒介契約には売却報告義務がないので、いちいち個別に連絡を取る必要があり、それが売主にとって手間になってしまう点もデメリットといえます。
一般媒介契約に向いている物件
このようなメリット・デメリットがありますが、一般媒介契約に向いている物件は上述のように「人気のある物件」でしょう。
というのも、たとえば「ターミナル駅から近い物件」のような訴求効果の高い物件の場合、不動産会社はその物件を積極的に広告展開するからです。そうすれば、その物件目当てに問い合わせが入り、ほかの物件を紹介できるかもしれません。
そのため、一般媒介契約のデメリットである「効果のある広告を絞る」という点が解消され、「複数社に依頼できる」というメリットが活きるのです。
一般媒介契約は「明示型」と「非明示型」がある
一般媒介契約には明示型と非明示型の2種類あります。明示型とは、一般媒介契約を結んだ不動産階会社に対し、「ほかにも○○社と××社と一般媒介契約を結んでいます」と明示することです。
一方、非明示型とはほかの不動産会社と一般媒介契約を結んでいることを明示しません。
明示型の方が良い
どちらが良いかというと、競争意識が働く明示型の方が良いです。
非明示型の場合、不動産会社からすると「ほかにどの会社へ依頼しているか」が分からないので、上述した「広告費の投下」がさらにしにくく、優先順位もさらに下がるでしょう。
一方、明示型であれば、どの会社に依頼したかが分かっているので、競争意識が働く可能性があります。
明示型の注意点は広告費の請求
明示型の一般媒介契約を結ぶときの注意点は、不動産会社に「ほかの会社と媒介契約を結んだ」という通知を怠った場合です。
つまり、新たにA社で一般媒介契約を結んだことを、既に一般媒介契約を結んでいるB社に通知しなかったときです。
明示型の一般媒介契約の場合、「通知を受けていない不動産会社で成約した場合には、その時点までの広告費を請求できる」とされています。
実際に請求するかはケースバイケースではありますが、少なくとも不動産会社には請求する権利がある点は認識しておきましょう。
一般媒介契約で知っておくべき「解約」のこと
一般媒介契約の契約期限は決まっていません。ただ、専任系媒介契約の契約期限が3か月以内なので、それに習って基本的には3か月で設定します。
解約は自由にできるのか?
「一般媒介契約の場合にはいつでも解約できる」と思っている人もいますが、厳密にいうと実は媒介契約のフォーマットでは「自由に解除できる」とされているわけではありません。
しかし、一般媒介契約の物件には、上述の通り不動産会社は広告費を過度に投下するわけではありませんし、営業マンも積極的に営業活動しません。
そのため、実際には電話やメールなどで解約する旨を伝えれば、一般媒介契約の場合は簡単に解約することができます。
費用負担もない
また、一般媒介契約の場合には、解約時の費用負担も基本的にありません。裏を返すと、解約時の費用負担がないからこそ、自由に解約できるともいえます。
現に、専属専任媒介契約のフォーマットを見てみると、「売主からの一方的な解約の場合には(広告費など)不動産会社は費用請求できる」というような内容が記載されています。
しかし、一般媒介契約のフォーマットにはこの旨の記載はないので、不動産会社が独自に特約などを付けていない限り、解約時にペナルティはないのです。
まとめ:一般媒介契約は複数社に依頼できるがデメリットも大きい
このように、一般媒介契約は複数社に売却依頼できますが、一社一社の広告費用が落ちたり、優先順位が落ちたりします。
不動産売却が成功するかどうかは不動産会社の力量が大きく左右されますので、媒介契約後との違いを知り、どの媒介契約を結ぶかを判断しましょう。