原価法とは

2019/03/11 投稿 2019/03/15更新

不動産査定を行う方法のひとつに「原価法」があります。

査定方法によって何が異なるのか気になる人も多いでしょう。

ここでは、原価法の概要やその他の不動産査定方法との違い、さらに算出方法や実際に用いられるケースを解説しています。

近年話題になっている、算出の評価要因の変化についても触れていますので、あわせて参考にしてください。

実は、耐用年数を使って家の資産価値を計るのが正しいのか議論になっているのです。
ほほう?これから家を売る身としては、知っておきたいな。

原価法とは

原価法とは、建物や住宅、土地といった不動産物件を鑑定する方法のひとつです。

原価法の名前通り、対象の不動産の「原価」を算出し査定を出します。

例えば、すでに建っている住宅の不動産鑑定評価額を、原価法を用いて出す場合は今建っている住宅を壊してもう一度建て直すときにかかる費用をまず出します。

その後に経年劣化している分を建て直した費用から引きます。

すると、現在の住宅の不動産鑑定評価額が算出される仕組みです。

その他の査定方法との違い

不動産物件の査定は、原価法のほかに「取引事例比較法」と「収益還元法」があります。

これらの査定方法と原価法の違いは以下の通りです。

・住宅や建物の価値を出すなら「原価法」
・住宅や建物ではなく土地部分の価値を出す、マンションなどの価値を出す場合は「取引事例比較法」
・居住ではなく投資目的の不動産なら「収益還元法」

「原価法」

原価法が不動産査定時に用いられるケースは、中古一戸建てなどすでに建っている住宅や建物の現在の価値を出したいときです。

「取引事例比較法」

土地付き建物の不動産物件を査定するときには、「建物部分を査定したい」場合と「土地部分を査定したい」場合があります。

土地部分を「取り壊して作り直す」のは不可能ですので、この場合は近隣の類似物件の取引事例を用いて、比較して査定を出す「取引事例比較法」が用いられます。

また中古マンションの査定を行う時には、同じマンション内の部屋の不動産物件取引の事例があれば比較対象として最適です。よって、マンションの査定額を出す場合にも、取引事例比較法が多く用いられています。

「収益還元法」

収益還元法とは、売買される不動産物件で「将来どのくらいの利益が出せるか・稼げるか」で査定を出す方法です。

つまり、収益ありきの不動産に対して用いられる査定方法で、投資目的の不動産物件の査定に用いられます。

例えば一般的な居住目的の戸建てやマンションの査定を出す場合には原価法または取引事例比較法、投資目的のリゾートマンションなどの査定を出す場合に収益還元法が用いられます。

原価法による算出方法

原価法による不動産物件評価の算出方法は以下の通りです。

原価法=再調達原価×延べ床面積×減価修正

それぞれの価格が何を指しているのか、算出方法と合わせて見てみましょう。

再調達原価とは

再調達原価とは、今すでに建っている建物を仮に取り壊し、再度同じ建物を建て直した時に「いくらかかるのか」を算出した価格です。

再調達原価の算出方法には、「直接法」と「間接法」があります。

直接法とは

直接法とは、具体的に建物を建てたときにかかる費用を項目ごとに調べて、再調達原価を算出する方法です。

算出時には、現在の時点での以下の項目ごとに具体的な費用を調査します。

・建物に使用している資材の種類や数量
・建築にかかる人件費や時間
・査定する不動産物件のある地域の単価を基礎とした工事費用
・間接工事費用
・工事を発注する側の利益

これらの項目をすべて積算して再調達原価を出します。

また、今建っている建物を過去に建てた時点で実際にかかった具体的な費用が判明している場合には、必要に応じた価格補正を行った上で再調達原価を算出できます。

間接法とは

直接法が今建っている建物に実際にかかる費用を算出する方法であるのに対して、間接法は査定対象となる不動産物件と類似した物件を用いて、再調達原価を算出する方法です。

・同じ地域にある条件などが類似した不動産物件
・同一需要圏内にある類似不動産物件

いずれかの類似不動産物件を摘出し、その不動産物件に関する項目を調査します。

項目を積算し、必要に応じた価格補正を行って、再調達原価が算出されます。

減価修正とは

減価修正とは、現在建っている建物の経年劣化分を算出することです。

減価修正は以下の方法で算出されます。

残耐用年数(耐用年数−築年数)÷耐用年数

建物や機械、設備など時間の経過や使用によって劣化し、本来の価値が失われていくもの全てを「減価償却資産(げんかしょうきゃくしさん)」と呼びます。

減価償却資産には、「この素材・機器ならこの年数まで価値がある」と法律で定められた法定耐用年数が設定されています。

原価法の減価修正を算出するときの耐用年数とは、一般的には法定耐用年数を用いています。

法定耐用年数を耐用年数とする場合

法定耐用年数は、国税局の公式サイトなどで確認できます。

例えば、自分が住むための建物で「木造・合成樹脂造のもの」かつ「店舗用・住宅用のもの」であれば法定耐用年数は33年。事業で利用する場合は22年になります。

耐用年数から築年数を引いて残耐用年数を出し、さらに耐用年数で割ると減価修正分が算出できます。

なお、法定耐用年数を築年数が超えている場合(例:木造の住宅用一戸建てが法定耐用年数33年に対して、築年数40年)は、不動産としての価値が0円とみなされます。

建物の査定には使用価値が用いられるようになる?

元々、減価償却資産の価値を決めるための法定耐用年数とは、購入費用を耐用年数に応じて計上していく、会計上の処理の「減価償却」のために用いられる年数です。

この減価償却が行われる対象の減価滅却資産とは、事業用の機器や不動産など、「利益を得るために用いられる資産」を指しています。

耐用年数で家の価値は測りにくい

よって、元々利益目的ではなく居住目的で建てられた住宅の価値を出すのに、法定耐用年数を用いるのは不適切でないかという意見が多くなりました。

居住目的で建てられた戸建やマンションなどの減価修正には、「法定耐用年数」ではなく、「使用価値」を用いるべき、という方向へ国が定めた不動産鑑定評価基準の耐用年数の考え方を変える動きが出始めています。

耐用年数から使用価値へ

使用価値とは、建物全体ではなく「基礎・躯体(くたい)」と「内外装・設備」の2つに分け、さらに細かい分類をして各箇所の価値や特徴を踏まえて出された価値を指します。

使用価値を算出する要因には、建物の補修や建物診断(ホームインスペクション)の有無など、維持管理の状況があります。

管理維持の状況に応じて、耐用年数の延長または短縮を行い、価値を算出していきます。

現在、国土交通省では原価法による査定に使用価値を用いるべきという「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」を発表、この指針に則った不動産評価を行う様に呼び掛けています。

具体的な建物評価の改善が行われたわけではありませんので、今後の動向に着目してみましょう。

価格補正とは

住宅や建物は、どのように使用されてきたか、立地や大きさなどで個性が出てきます。

よって原価法によって算出された価格は、最終的には住宅や建物の持つ個別の要因を踏まえて、正しい価格を算出する「価格補正」が行われ、不動産評価額が査定されます。

原価法によって導き出された価格に、価格補正を行って算出された価格を「積算価格」と呼び、価格補正には以下の要因を用います。

・規模補正率
・駐車場補正率
・建物グレード補正率
・その他特殊設備やリフォームの有無 など

規模補正率

実際の建物の大きさや、需要の高さなどで価格補正を行うのを、規模補正率と呼びます。

例えば、人気の立地にあり需要が高い、地方都市でも建物そのものが広い・大きいのならその分だけ高く価格補正が行われます。

逆に過疎地など需要が低い、建物が狭小住宅などなら低く価格補正される傾向にあります。

駐車場補正率

駐車場補正率と呼び、駐車場の有無によっても価格補正がされます。

例えば生活の中で車が必須の地方都市なら、駐車場スペースがあると高く価格補正される傾向にあります。

建物グレード補正率

実際に建物を施工した企業や会社によって、坪単価が異なってきます。

ローコストメーカーよりも、高級住宅を手掛けるメーカーに依頼した場合は高くなるなど、施工した企業や会社によって行う価格補正です。

積算法とは

建物の査定を出すのは売却だけでなく、賃貸物件として出す場合の賃料を決める時にも用いられます

原価法を用いたうえで、建物の賃料を算出するのが積算法です。

原価法によって導き出された積算価格に、賃貸として出した上で利益が期待できる価格(利益利回り)を載せ、さらに賃貸物件として継続して貸し出すための諸経費を加えて賃料を出します。

また、積算法で求められた賃料を「積算賃料」と呼びます。

原価法が用いられるケース

実際に原価法が用いられる不動産査定のケースは以下の通りです。

・建物のみの査定を行う時
・建物および土地両方の査定を行う時
・新しく宅地開発を行う際の土地査定を行う時

建物のみの査定を行う時

現在建っている建物を売却したい場合、または賃貸に出したい場合で建物そのものの不動産査定を行う時には、原価法が用いられます。

ただし、建物の再調達価格や減価修正が困難な場合は、取引事例比較法が用いられる場合もあります。

建物および土地両方の査定を行う時

建物と土地両方の査定を行う場合には、建物を原価法にて、宅地用の土地は取引事例比較法を用いて算出されます。

新しく宅地開発を行う際の土地査定を行う時

土地部分の査定を行う場合、すでに宅地として使用されている場合は原価法による算出には不向きです。

一方で、元々農地や林地だった土地が宅地として使用される場合には、その土地の原価を求めることで本来の価値が算出できる原価法での査定が有効になります。

まとめ:今後の原価法の算出方法にも注目しよう

不動産査定の方法のひとつである原価法の概要と、ほかの査定方法との比較、算出方法、実際に原価法が用いられるケースをご紹介しました。

近年の住まいに対する考え方の変化にともなって、元々法定耐用年数ありきだった原価法も、実際に住む上で価値があるかどうかが評価に影響すべきという考え方に変わってきました。

今後不動産の売却や住み替えを検討する上では、原価法のように新しい価値観や考え方が求められるようになるかもしれません。

今後住宅の売却や住み替えの可能性のある人は、原価法の今後の流れもぜひ着目してみましょう。