取引事例比較法とは

2019/02/06 投稿 2019/03/15更新
取引事例比較法ってなんのことだ?法律?
家を査定する時の方法のひとつですよ。

 

住んでいた住居やマンションを売却するときは、できるだけ高い査定が出て欲しいですよね。

不動産を売却する前の不動産会社選びのポイントは、その会社が信頼できるか、営業担当者が親身に対応してくれるかなどがあります。

さらに、不動産会社を選ぶ前に、売却したい物件の査定を決める「取引事例比較法」を知っておくと、より納得の住居売却につながります。

今回は取引事例比較法の用語説明に加えて、住宅やマンションの査定価格を算出する方法、そのほかの査定方法との違いなどをご紹介します。

取引事例比較法とは

「取引事例比較法」とは、売却したい物件の査定額を出す方法のひとつです。

物件売却の査定額を出す方法には、取引事例比較法のほかに「原価法」と「収益還元法」と合わせて3つの方法があり、最も一般的に用いられている方法が、取引事例比較法です。

簡単に言えば、同じエリアで過去に売却された条件が類似するマンションの価格を参考に価格を算出する方法です。その上で、色々なポイントからのメリットやデメリットを加味して、実際のマンションの査定額を出します。

ここで覚えておきたいのが、過去ほかのマンションが売り出された「販売価格」ではなく、実際に売却された価格である「成約価格」を参考にしている点です。

なお、取引事例比較法によって算出された物件の価格を「比準価格」と呼びます。

取引事例比較法による査定価格の算出方法

取引事例比較法を用いて売却したい物件の比準価格を算出するには、以下の5つの観点と要因から成約価格の補正を行った上で、抽出した事例と売却したい物件の比較を行います。

・事情補正
・時点修正
・標準化補正
・地域要因比較
・個別的要因比較

これらの補正や比較を行った上で、以下の計算式によって比準価格が算出されます。

比準価格 =
取引事例の成約価格×事情補正×時点修正×標準化補正×地域要因比較×個別要因比較

これらの用語説明とともに取引事例比較法による比準価格算出方法を、順序を追ってみてみましょう。

比較対象になる成約事例を抽出する

売却したい物件の比較対象になる、ほかの物件の成約事例を抽出します。抽出対象としては、以下の物件事例が候補となります。

・同じマンションの違う部屋
・似た間取りやタイプのマンションや住居
・周辺地域にあるマンションや戸建て など

当然同じ地域、または近隣地域からの物件取引事例が比較対象として抽出されます。

例えば、東京都港区のマンションの査定額を算出する場合は、同じマンションまたは同じ東京都港区、それでもない場合は東京都新宿区や中央区にあるマンションの取引事例を抽出します。

東京都でも23区外や、大阪府のマンションは比較対象としては不適切ですので、抽出されません

事例補正を行う

実際に物件が売却される成約価格の裏には、実際の物件相場よりも低い、または高い価格で制約されるケースもあります。

例えば、何らかの事情でできるだけ早くマンションを価格に関わらず手放したいと売り主が希望すれば、マンションはいわゆる「投げ売り」状態になり、実際の相場よりも成約価格は低くなります。

このように比較対象として抽出した物件の中に、成約価格に影響する特殊な事例があった場合、その事例は比較対象として抽出できません。

特殊な成約事例のある抽出を避けることを「事例補正」といいます。

時点補正を行い、変動率を決定する

物件の成約価格は、一定ではありません。

例えば戸建やマンションの周辺に便利な商業施設ができたり、自治体が人気となり人口が増えたりすれば、物件の付加価値も上がるため価格も上昇します。

このように、抽出した事例で売却された時点での成約価格が、現時点ではどのくらいの成約価格になるかを補正して適正な成約価格を出すのが、時点補正です。

抽出した事例から時点補正をした上で物件の価格変動率を出し、結果により物件の査定にプラスするか、マイナスするかを算出します。

標準化補正を行う

抽出した物件によっては、角地に立っている、南向き、地形が変形している場所に立っているなど地理的条件が成約価格に影響している場合があります。

抽出した物件が、標準的な土地に建っていた場合を考慮し、抽出した事例の成約価格に補正を行うのが「標準化補正」です。

地域要因比較とは

比較する対象が、同じマンションの部屋や近隣地域の物件の中からは抽出できない場合に用いるのが「地域要因比較」です。

少し離れた地域から比較対象とする物件売却事例を抽出する場合、地域によって地価が異なるため、同じ条件の物件でも地域によって成約価格が異なってきます。

よって、抽出した対象が違う地域の物件の場合は、地域要因比較を用いて抽出した事例の地域と、売却したい物件の地域との平均的な価格水準差を算出し、補正を行って適正な査定額を出します。

個別的要因比較で個々の要因を比較する

最後に、抽出した事例と、売却したい物件それぞれにある個々の要因を比較して価格の補正を行うのが、「個別的要因比較」です。

例えばマンションの間取りや築年数など、物件そのものの条件は似ていても、個々のマンションを取り巻く環境要因は異なってきます。

よって、それらの駅や商業施設への距離、周辺道路の道幅、日当たりなどが考慮され、メリットやデメリットを比較しながら成約価格の補正を行います。

その他の査定方法(原価法、収益還元法)との違い

物件の査定方法は、取引事例比較法以外に原価法、収益還元法があります。これら2つの査定方法と比較してみましょう。

原価法は一戸建ての建物部分の査定に用いられる

原価法は一戸建ての建物部分の査定額を算出する際に用いられる方法です。

原価法による算出方法

再調達価格−減価修正=建物部分の査定額

再調整価格とは、売却する土地に建っている建物を取り壊し、もう一度建てた場合にかかる費用を算出した価格です。

減価修正とは、建物の部分や設備で老朽化している箇所を再調達価格から差し引くことを指します。

なお、一戸建ての土地部分の査定額を算出する場合は、取引事例比較法が用いられます。

収益還元法は収益物件の査定に用いられる

収益還元法とは、対象となる不動産物件の収益力に基づいて、不動産の査定価格を算出する方法です。

収益力とは、簡単に言えばその物件で将来的にどのくらい稼げるかを指します。当然収益力が高ければ高いほど、不動産物件の査定額は上がります。

収益力が求められる不動産物件に対する算出方法のため、投資目的で購入するマンションなど、収益物件の査定方法として用いられています。

ケーススタディ

実際に取引事例比較法を用いた一番簡単な査定の出し方を見てみましょう。

ケース:72.94㎡の中古マンションを売却したい

①過去の成約事例を抽出し、1㎡あたりの査定額を算出する。

選んだ事例が専有面積75.12 ㎡、成約価格が3500万円の場合
3500万円÷75.12 ㎡=46.5万円。

②1㎡あたりの査定額を用いて、売却したい中古マンションの査定額を算出する。72.94㎡×46.5万円=3391万円。

この後、商業施設に近い場合・駅が新しくできる予定ならプラス○万円、人口が減ってきている地域のためマイナス○万円など、事情補正・時点修正・標準化補正・地域要因比較・個別的要因比較が用いられて査定額への補正が入り、実際の査定額として算出されます。

取引事例比較法の3つのデメリット

取引事例比較法は、実はデメリットもあります。覚えておきたい3つのデメリットを見ておきましょう。

比較対象が少ないと正確な金額とは言えない

取引事例比較法は、比較対象のための抽出事例が多ければ多いほど正しい査定が出せます。

つまり、抽出事例が少ないと正確な金額が出にくいのがデメリットです。

例えば、比較的築年数が浅い新しいマンションなら、同一物件内での取引事例がない場合があります。

戸建も再開発などで比較的新しい物件が多い場合は、適切な取引事例が少ない場合もあります。

取引事例が少ない場合は、同一地域ではなく近隣地域から、また最近ではなくやや古い時期からなど、要素の異なる比較対象の事例を抽出するので、より多くの補正や修正が必要になります。

よって、中古物件取引実績が高い不動産会社を利用するなど、工夫をしないと正確な査定額が出ず、損してしまうことがあるので注意しましょう。

特殊事例がわからない場合がある

取引事例比較法で比較対象として用いる成約事例は、不動産取引のデータベースである「レインズ」から抽出します。

なお、レインズで成約事例を閲覧できるのは、不動産業者のみです。レインズでは成約価格は参照できますが、「なぜこの価格で購入されたか」という、物件の背景にある事情までは記入されていません。

よって、事例補正で排除されるべき特殊な成約事例が比較対象として抽出されてしまう可能性もあるのです。正確な査定が出ず、損をしてしまうこともあるので、より正確かつ多くの類似した事例を抽出できる不動産業者への売却依頼が必須です。

取引事例比較法が使えない物件がある

取引事例比較法は一般的な物件売却時の査定方法として用いられていますが、すべての物件売却に使用できるわけではありません。

一戸建てでもデザイナーズハウスなどほかに比較対象となる物件がない場合の査定には用いられません。また、収益物件の査定には収益還元法が用いられます。

まとめ:取引事例比較法は一般的な物件売却方法

取引事例比較法の用語解説や、実際の不動産査定金額の算出方法、その他の査定方法との比較、取引事例比較法のデメリットをご紹介しました。

取引事例比較法は一般的な不動産物件査定に用いられている方法のため、実際に住み替えや買い替えで一戸建てやマンションを売却したいときに用いられています。

私たちの生活に一番身近な査定方法だからこそ、より多くの事例や比較対象として適切な事例の抽出が必須となります。

より信頼でき、中古物件取引の実績の高い不動産業者を選んで依頼できれば、納得のマンションや戸建て売却につながるでしょう。